雪のとなりに、春。
「折原さん」

「!」


それからすぐ看護師の声が静かなラウンジに響く。
初めて男性の表情から笑顔が消えた。

髪の毛を綺麗にまとめた看護師は、深く頷いて、それから笑みを浮かべる。
「どうぞ」と言うように手を手術室の方へ伸ばした。

それを見た男性と「シノ」と呼ばれていた青年は、一緒になって手術室へ向かって駆け出す。


「……行くか、オレらも」


皐月のいつになく真面目な声に、救われたような不思議な気持ちになる。

今、襲われるように抱えているこの想いは。
きっと皐月も同じくらい感じてる。

それが伝わってきたから、なんだと思う。

2人の後を追いかけるように早足で向かえば、狙ったようなタイミングで「手術中」のランプが消えた。

中からスクラブに身を包んだ父さんが現れた。
その隣にはおじさんもいる。


2人の担当医を前に、「折原さん」と呼ばれていた男性は静かに、一歩前に出た。

これだけ距離があってもよく分かる。

彼はすがるように表情を歪ませていた。


「手術、無事に終了しましたよ。奥さんが頑張ってくれました」

「まだ麻酔が効いていますが、順調にいけばもうすぐ意識も戻るそうですよ」


父さんとおじさんの言葉を聞いた男性は、膝から崩れ落ちて。
声にならない声で、絞り出すように、嗚咽混じりに。
何度も何度も「ありがとうございます」と口にした。

その隣のシノさんは対照的に、冷静な表情のまま父さんを見つめている。


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