雪のとなりに、春。
***

「本当によかったの?」

「うん」


私たちはそれからすぐに病院を出た。
雪杜くんと皐月さんが、そうしようと言ったから。

私はてっきり、2人がお父様となにかお話でもするんだと思っていたから、帰りのバスに乗っている今でも本当によかったのかと不安になっている。

皐月さんは家が誓いからと途中で別れて、今はバスの中で雪杜くんとふたりきり。
私があまりにも泣くからだろう、手もずっと繋いでくれている。


「せっかくお父様に会えたのに、何も話さなくてよかったの……? 家でもそんなに話してなかったのに……」

「うん。大丈夫」


もう何度目だろう。
そろそろしつこいと言われても仕方ないかもしれない。


「父さんは多分、俺と何かを話したかった訳じゃないよ」

「え?」

「見せたかったんだと思う」

「見せたかった……?」


こくんと頷いた雪杜くんは、なにかこう、すっきりした表情で。
なんだろう、また一段と大人っぽくなったような、そんな雰囲気だ。


「あの、ね、雪杜くん」


繋がったままの手をきゅっと握れば、答えるように握り返してくれた。



< 232 / 246 >

この作品をシェア

pagetop