雪のとなりに、春。
混乱したように何度も瞬きを繰り返している。

私はニッと笑って、私が見つけたやりたいことを伝えた。


「私、看護師さんになりたい」

「……花暖先輩が、看護師?」

「うん」


事故の一件や、雪杜くんの体調不良で、自分がいかに無力なのか知った。

けど、こんな自分でも役に立てることがあることも知った。

そして今日、患者さんとその周りにいる人たちに触れて、自分がその人達に寄り添いたいと思った。

なにより医療の現場でなら、繋がっていられるもの。
大好きな人と。


「……先輩でも行ける大学に、」

「だめ。雪杜くんは、自分の行くべき大学を目指して?」


繋がれている手を離して、そっと雪杜くんの頬に添えた。
男の子なのに一切荒れていない肌が羨ましい。


「できる人ができない人に合わせるなんて違うよ。できない人ができる人に合わせなくちゃ」


相手が好きな人なら、大切な人ならなおさら。


「だから私頑張るよ」


進む大学は違ってしまうけど、それだけ。

歩く道がちょっと違うだけ。けれど確かに隣にいる。

私の方が先にスタートするくせに、進むのはきっと遅いと思うけど、必ず雪杜くんを追いかけるから。


「雪杜くん、本当はお医者さんになりたいんでしょ?」


まだ、君の口からはっきり聞いてない。

ね。

私にも君の夢の話を聞かせてよ。


「……医者になりたい、というか」


頬に人差し指を軽く当てて上下させる。
それから手の甲で口元を隠して、視線だけをこっちに向けてから小さく呟いた。


「父さんみたいな、医者になりたい」


きっとこれが、奏雨ちゃんが言っていた雪杜くんの夢。
本当に、やりたいこと。


自然と口角が上がって、繋がっている手にぎゅっと力が入った。


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