雪のとなりに、春。
10 きみのとなり。
球場から外に出た途端、蝉の声で周りの声なんてよく聞こえない。
周りの声なんて全部かき消される。


「うっ……うぇ、うう、うっ……」

「カノ、蝉よりうるさい」

「ほんと、いつまで泣いてんの先輩」

「ちょっとはなの!! そんなにこすったら腫れるって!!」


あれから勉強で忙しい毎日を過ごしていたら、あっという間に夏が来てしまった。


みんなとこうして集合するのはすごく久しぶり。

その中で、勉強意外のことに力を注いできた人がひとりいた。


「いやー負けたわー……ってカノ!? 泣きすぎじゃね!?」

「しっ、しなのくん……っうう、お、おつかれさまあ……!!」


実は今日、信濃くんがずっと頑張ってきたサッカーの大会の応援にみんなで来ていた。

全国から競合が集まってきて、今日試合をした学校はたった二校。

そのうちの一校が、うちの高校だ。


「ありがとうっつか、いや……泣きすぎじゃね?」

「ううう~……」


ミーティングを終わらせて着替え終わった信濃くんは、泣きじゃくる私をみておかしそうに笑う。

それから、まだ湿った髪の毛を首にかけてあるタオルでがしがしと拭いた。


「おしかったな、統河」

「とりあえずはお疲れ様です」


そんな信濃くんに、環くんと雪杜くんが近づいて。
ふたり同時に背中で隠していた缶ジュースを信濃くんの顔に押し当てた。

信濃くんの叫び声が辺りに響き渡る。
< 236 / 246 >

この作品をシェア

pagetop