雪のとなりに、春。
「俺も行ってくる。ゆっくりしてていいから」

「うん!!」

「?」


不思議そうにこっちを振り向いて、首を傾げた。


「『行ってらっしゃい』は?」

「いってらっしゃい!!!!!」

「うん、行ってきます」


にこりと笑った雪杜くんは、脱衣所に向かって行ってしまった。
私は呆然と立っているだけ。

全身の血管がドクドクと音をたてる。

え、なに?
そういえば私がお風呂に入るときも「行ってらっしゃい」と言われて意識が飛びそうになったのを思い出す。

本当に飛びかけてたんだな、さっきまで忘れてたもの。

だめだ、倒れる前に座ろう。


「……」


さっきまで雪杜くんが座っていたところに腰を下ろす。


「うわあ、医学書ってこんなに厚いんだ」


好奇心で、その医学書をぺらぺらとめくってみる。
何かの研究? 結果? がびっしりと文字となって敷き詰められていて、めまいがした。


「雪杜くんは、いつもこんなに難しい本を読んでるんだ……」


もうすぐ実力テストもあるし、去年みたいに勉強会を開くのもいいかもしれない。
もちろん、2人でも、みんなと一緒でも。

心地のいい疲労感に襲われ、ほっぺをテーブルにくっつける。
ひんやりしてきもちいい。


「あ、そうだ、奏雨ちゃんも……どうかなあ……」


いや、相手はあの雪杜くんの従妹だ。
勉強もできるんだろうなあ……。


私の意識は、そこでぷちんと切れた。

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