雪のとなりに、春。
***

「……ん」


目が覚める。
時間を確認しようとしていつもの場所に時計がないことに気付いて、ハッとした。


「!」


体を起こすと見慣れない光景が広がっていた。
机と、乱雑に積まれた教科書や参考書。
壁に掛けられている鞄類。

それと、厚板。
前後に車輪が着いているけど、あれは……スケートボード?


「……あ」


机の上に置いてある卓上カレンダーに目がとまる。
手のひらサイズの小さなピンク色の桜柄の巾着が引っかけられるような形でつるされていた。

去年の修学旅行のお土産に私が雪杜くんに渡したものだ。
この香りを感じる度に雪杜くんを思い出せるっていう理由で、自分も同じ物を買った。今でも大切に持ち歩いている。

さすがに香りは薄れてしまったけど、鼻を近づけたら確かに桜の香りがする。


「……ということはここ、雪杜くんの部屋!?」


一番大事なことに気付いて、そしてベッドにもう一度潜り込んだ自分が怖い。
雪杜くんの匂い。
毎晩このベッドで寝てるんだ。


「っそうじゃない!! 違う!! 本物はどこ!!」


ガバッと起き上がり、慌てて部屋を出る。
窓から見えた空を見る限り、朝のだいぶ早い時間だろうから、本物はきっとまだどこかで寝ているはずだ。

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