雪のとなりに、春。
「雪杜くんの、ご家族は?」


「なんでも答える」と言った割には、私の質問を聞いた瞬間笑顔が消えて。
代わりにつまらなそうな表情になってしまう。

やっぱり、あんまり人に話したくないことだったのかもしれない。


「……父さんは外科医。俺が物心ついたあたりから海外での仕事が決まって、母さんを連れて向こう(海外)で仕事してる」

「ご両親、雪杜くんのことは連れて行かなかったんだ……」

「ベースは日本で学んだ方がいいとかなんとかっていう理由だった気がするけど、その辺はよく覚えてない。その間俺は親戚のおばさんの家……奏雨の家に預けられてた」


雪杜くんは、懐かしそうに目を細める。


「奏雨は俺と違って真面目だから、大学の医学部受験に強い中学に入って寮生活。俺は高校入学と共にあの家に一人戻ってきたってところ」


掃除と片付けがしぬほど大変だったと付け加えてから、大きなため息をついた。


「ただ、どうしてあれだけ頑張って受かったのにそのまま高校に進学しなかったのかがわからない。うちの高校は、他と比べて偏差値が高いわけでもないし、奏雨にとってメリットは何もないはずなのに」

「……雪杜くんは、どうしてうちの高校に入ったの?」


ああ、苦虫をかみつぶしたような表情をしてしまった。
またも聞かれたくないことだったみたいだ。


「……逃げた」

「え?」

「息苦しくて、逃げた」


息苦しくて、と言った君は
本当に苦しそうにして笑うから。

いたたまれなくなってぎゅっと抱きしめた。

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