雪のとなりに、春。
「雪杜くんのこと、完璧な人なんだと思ってた」

「……だろうね。たいていの人がそうやって決めつけるから」


――「……人を見た目で判断するような人に知ってもらいたいと思わないし、別にいい」

まだ出会ったばかりの頃。雪杜くんが言っていたことを思い出した。

なんてない顔で言ってるのに、声は少しだけ寂しそうで。
そうやって今までも閉じこもってきたのかなと思って切なくなったのを覚えてる。

周りの人にきちんと自分をわかってもらえなくていいって強がって、遠ざけてきたんだろうなって。

もしかしたら、奏雨ちゃんならその理由を知っているのかもしれない。
だから今朝、あんなふうに言われてしまったのかもしれない。


「本当は優しくて、勉強もできるけど、野菜が嫌いで、ちょっと照れ屋な雪杜くんが好き」

「……」


肩に顔を埋められる。……徐々に熱が伝わってきた。
きっと真っ赤になってるんだろうな。


「私は、今の雪杜くんが大好きだよ」

「……先輩、思ったより元気だね」

「雪杜くんが魔法をかけてくれたもん」

「俺は魔法使いじゃない」


そっと身体が離れていく。
代わりに肩に置かれた手もやっぱり熱い。


「教室、戻れそう?」

「うん、ありがとう」


手を引かれて、立ち上がる。
少しだけだったけど雪杜くんのことを知ることができてよかった。

それに、奏雨ちゃんのことも。

すぐに仲良くなることは難しいかもしれないし、また自信をなくして落ち込んだり悩んだりするかもしれない。
でもそのたびに思い出す。

私の手をとって立ち上がらせてくれる大好きな人のことを。

お守りよりも確かで、でもお守りみたいに傍にいてくれる。


――「俺が信じてあげる。頑張れ」


雪杜くんの言葉が私の中に強く灯った。


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