雪のとなりに、春。
*奈冷side*

「奈冷っ!!」


やっと昼休みになって、つい最近まで自分がいた教室に顔を出す。
俺の姿に真っ先に気付いた彼女は、子供の頃に何度も見てきた屈託のない笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。

その姿はどことなく花暖先輩に似ていて、つい笑みがこぼれてしまう。


「会いに来てくれたのね、嬉しい」


ただ先輩と違うのは、このまま勢いで抱きついて来ることなくきちんと目の前で立ち止まってくれるところ。
……いや、あの人の距離感が少し狂っているだけなのかも。


「……小日向花暖のことなら、わたし謝らないわよ」


3年ぶりに会うというのに、気に入らないことがあるとすぐに拗ねるのも変わっていない。
ぷいっと顔を背けられてしまった。

黙っていれば綺麗な顔立ちをしていて、一見クールで大人しそうなこの子が
天から与えられた才能に一切満足せずストイックに自分を追い込んで努力する姿を誰が予想できるんだろう。


「奏雨」


肩がぴくりと動いて、背けられていた顔をやっとこちらを向いてくれた。
何かに怯えたような表情。


「本当に、このままでいいの?」


寄り添うように、できるだけ優しく声をかける。

奏雨にならきっと届く。
先輩が俺にしてくれたみたいに、諦めずに伝え続けたらきっと。

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