雪のとなりに、春。
――奏雨とはそれっきりだった。
会うのは実に3年ぶりだというのに、状況が飲み込めなくてうまく言葉が出てこない。


「なん、で。あんなに頑張ってたのに、なんでこっちの高校に……」

「奈冷に会いに来たのよ。婚約者としてね」

「……は?」


次々とわき出てくる情報を整理しきれない。
婚約、と言われたって全く身に覚えがない。

第一俺と奏雨はそんな関係じゃなかったはずだ。

奏雨はただ暗く怪しげな笑顔を向けてくるのみで、詳しい説明なんて全然してくれない。


「ひどい奈冷。わたしと会わない間にどうして彼女なんて作っちゃったの?」

「え」

「……確か名前は、小日向花暖」


小さい頃は、奏雨の声を風鈴のようだと思っていたこともあった。
その声が今ではやけに低く響く。


「な、んで」


なんで奏雨が花暖先輩のことを。
奏雨はずっと寮生活で、俺は一度も向こうに帰っていないし不必要な外出も避けていた。

人混みは嫌いだ。
そうじゃないと分かっていても、いつの間にか人の視線に臆病になっていた。

そこまで考えて、ひとつの答えにたどり着く。

バカだ。

なんですぐに気付かなかった。


「……皐月(さつき)……か?」

< 59 / 246 >

この作品をシェア

pagetop