雪のとなりに、春。
「――ブッ……!!」


こらえきれないというように、奏雨……の姿をしたそいつは盛大に噴き出した。

奏雨がするはずのないその行動を目にして、疑念が確信に変わる。

そもそも3年ぶりだというのに挨拶も何もなくベラベラと自分の話を始めたあたりから気付くべきだった。
奏雨の声が心なしか低く聞こえるのにも納得する。


「……おっそ、おっそ!! さすがナツメ、気付くのおっそ!! ウケる!!」


奏雨の顔をしてはいるが、その口から出てきた声のトーンは男のそれだ。


「スカートとか初めて履いたけどめっちゃくちゃスースーすんのな」


スカートの裾を指先でつまむようにして、棒のように細い両足を外側に曲げる。
それからおかしそうにまたゲラゲラと笑った。

品のない笑い方は、昔から変わらない。


「……」


突然のインターホン。
3年ぶりのいとこの登場。
春から同じ高校、そして婚約者だという衝撃的な告白。
さらにそのいとこは偽物で……えーっと……。


「いやあ、あのナツメに彼女ができるなんて思わなかったわー。お前もついに女で遊ぶこと覚えたんだ? サツキお兄チャン感動!!」

「遊びじゃない」


反射的に否定した。
不快だった。

涙を流す振りをしたまま、ギロリと目だけが俺に向けられる。

……不快なのは、どうやら向こうも同じらしい。


「お前がオレの言葉否定すんの? え? どういう時代?」

「……」


瞬間、否定したことに後悔した。

こいつの性格を知っているからこそ、注意しなければならなかったのに。

相変わらず皐月は、いちいち俺を焚きつけるのが上手い。

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