雪のとなりに、春。
今からでも「遊びだ」と言えばいい。
そうしないと、こいつは花暖先輩に真っ先に手を出しに行く。

それこそ、ありとあらゆる方法を使って。

雪杜皐月という男は、どうしたら俺に与えるダメージ量がより大きくなるのかをよく知っている。

わざわざ実妹の変装をするのだって俺に少しでも動揺させるためだけにしている。
本当にご苦労なことだ。

……と言っても、どうしてそこまでされないといけないのかは、昔からよく分かっていないんだけれど。


「……っ」


遊びだ、と言えるくらいの余裕があればよかった。

……こういうところが、本当に。


「『雪杜の出来損ない』が、オレを否定とかしてんなよ」

「……」


一人暮らしをして一年が経った。

平和な日々を送っていたせいか、幼い頃何度もこいつから浴びせられてきたその言葉がやけに懐かしく、重く深く、ずぷりと刺さる。


「その出来損ないに何の用?」


すっと力が抜けていくはずなのに、立っている身体が重い。

そう、全部がどうでもよくなるこの感じ。
1度俺の中に染み付いたものは、浸透するのも早い。


「今の女さっさと捨てて、カナメと付き合え」

「は!?」

「無理なら毎週ここにお邪魔するだけだけど?」


意味が分からない、なんて今更だ。

こいつは俺が嫌がることならなんだってする。

けど、なんでこんな、急に。

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