雪のとなりに、春。
「……奏雨の相手を、お前が勝手に決めるなよ」


落ち着け。
こいつと話す時は、本気になったほうが負けだ。
わかってる。冷静になれ。


「カナメがなあ、お前がいいって言ってんの」

「そっ……はあ?」


飄々と言ってのける。
そんなことあるわけがない。

奏雨みたいな努力家が、俺みたいな奴を。

そんなわけがないとわかっているのに、どうしたって動揺する。


「だいたい、なんで嫌いな奴の家にわざわざ毎週通うわけ。皐月の時間がつぶれるだけだろ」

「は? だからお前は出来損ないだってーの」


べっとやけに長い舌を出す。
品がない。
奏雨の姿でそんなことするなよ。


「お前の嫌がることなんて、手に取るようにわかるからオレ」


だろうね。

おかげで不快感のあまり身体が小刻みに震えてきた。

悟られないように……なんて無駄だとわかっていながら、それでも平静を装って近くのソファーに腰を下ろした。


「ガクガク震えちゃって、かわちーねナツメくん」

「はあ……」


本当にこの男は。
出来れば二度と関わりたくなかった。

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