雪のとなりに、春。
「本当はオレもカナメ追いかけてお前と同じ高校に編入しようと思ったけど、さすがに兄妹そろって母さんの顔に泥を塗るわけにいかねーしなぁ?」


皐月も、奏雨と同じ中学に入っていた。

今は花暖先輩と一緒の高校3年だ。

……もしも編入されて来ていたらと思うとゾッとする。


「そんなことが親の顔に、泥を塗ることになるわけないだろ……っ」


最後まで言い終わらないうちに胸ぐらをつかまれた。
それでも途中で止めずに最後まで続けたのは、少しくらいやり返したい気持ちがあったからだ。

皐月という男は、俺の嫌がることをよく知っている。


「“そんなこと”じゃねーよ逃げた出来損ないが何言ってんだ? あ?」


……だけど、それは逆も然り(しかり)


「……あ? なに笑ってんだ。おい。出来損ないがお気楽かましてんじゃねえぞ」

「別に。毎週皐月と会えるのが嬉しいと思っただけだけど」


ゆらり。
一度下に落ちた瞳が鋭さを増して俺を睨んだ。


「カナメとくっつく気がないってことか? おい」

「さすが、雪杜家の期待の星だね」

「……おい、いい加減にしろよ。その顔傷物にしたくねえだろ」

「……」


しばらくの沈黙のあと。
皐月は放り投げるように俺の服から手を離した。


「……萎えた。帰るわ」


ぷつんと張り詰めた糸が切れたように、両腕を天井に伸ばして伸びをする。

まったく、お気楽なのはどっちだ。


「ねえ、毎週その格好で来るの」


暗い笑みを浮かべて振り返るのを見て、聞かなければよかったとまた後悔。
「その格好で来るな」と言っているのと同義だからだ。

それよりこいつの妹である奏雨の気持ちを考えるといたたまれない。


「じゃーまた来週会おーね、ナツメ」
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