雪のとなりに、春。
***

あれから本当に毎週来るから、正直かなり疲弊している。もちろん奏雨の格好で。
けどここで奴の言うことを聞かないと何をされるかわかったものじゃない。

おかげでタマキ先輩には怪しまれるし、花暖先輩の様子はおかしいし。


あまりにも先輩の様子がおかしいから、一応家の外で待機していると、トーガ先輩とタマキ先輩を引き連れてくるからさすがに焦った。
それと同時に皐月と先輩達が鉢合わせることの覚悟もした。


そのあと先輩が家に泊まりたいと言ったときは内心頭を抱えた。

先輩が風呂に入っている間になんとか追い返したからいいものの、1日に2回も押しかけてくるのは嫌がらせの天才だと思う。一応警戒していてよかった。

……今後先輩を家に入れるのは控えた方が良さそうだ。


おそらく奏雨はその話を皐月から聞いていたから、先輩が家に泊まったことを知っていたんだろう。

花暖先輩は気付いていないんだろうけど、実質今朝が奏雨との初対面(はつたいめん)だった。


この話をあの人達にうまく説明できる気がしなくて、その時のことを考えると頭が痛い。

タマキ先輩に頼りたいという悲鳴を心の奥底にしまい込んで、再度口を開いた。


「奏雨、どうしてうちの高校に来たのか教えてくれる?」

「……」

「皐月が俺に嫌がらせをしてくるのは今に始まったことじゃないけど、急すぎる。きっとなにか関係してるんじゃないのか?」


スカートを両手で握りしめて、拗ねたように口をきゅっと結んでいる。

ここ数週間でだいぶ感覚がやられていたけど、目の前の奏雨は本物の奏雨だと確信できて、少しほっとした。

奏雨はあんなに口悪くないし、俺に舌だって見せることはない。


「理由が分かれば俺も動きやすいし、奏雨の力になれると思うけ……っど、!?」


瞬間、クンッと下に引っ張られる。


しおらしい、女の子。

俺の知っている奏雨は、男のネクタイを強引に引っ張ったりしないし

……好きでもない男とキスをするような子じゃない。

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