雪のとなりに、春。
「きゃー!!」

「お疲れ様!!」

「!?」


教室の入り口のほうから急に黄色い声。

驚いて声のした方を見やれば、タオルで濡れた髪の毛を荒く拭きながら教室に入ってくる男の子。
その周りを女の子たちが囲んでいた。


「ごめん、通して……」


自分を囲っている女の子たちの間を縫うようにして、ため息をつきながらタオルを頭から外した。

赤みの強い色で、ほどよく遊ばせた髪はまだ少し濡れている。

その人はまっすぐこちらへ歩いてくると、私の前の席に重たそうな鞄を置いた。


「おはよ、カノ」

「おはよう信濃くん。朝練?」

「そ、腹減ったー」

「お疲れ様。クッキーあるけど食べる?」

「いる、ありがと」


信濃 統河(しなの とうが)くん。
サッカー部のエースで、ご覧の通り女子から大人気の男の子。

嬉しそうにクッキーを受け取った信濃くんは、袋を開けて一口でぱくり。


「んま。普通に疲れ吹っ飛びました、ありがと」

「いえいえ。明日からも軽食とか用意しておこうか?」


そう言うと、信濃くんはあからさまに眉間にしわを寄せた。


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