雪のとなりに、春。
耳元で名前を呼ばれた奏雨ちゃんは、環くんの息がかかったであろう耳を素早く押さえた。
そして、真っ赤な顔で声の主を振り返る。


「……って、呼んでもいい?」


優しく微笑んで首を傾げた環くん。
奏雨ちゃんはしばらくフリーズしていたけど、なんとかこくんと頷いた。


「じゃあ俺も奏雨って呼ぶ」


復活した信濃くんも膝に肘をついて前のめりになりながらそう呟く。
奏雨ちゃんの顔の赤みがどんどん増していく。


「……っわ、わたし、用事を思い出したわ!!」


急に立ち上がった奏雨ちゃんは、最後に私を睨んだ。
……さっきほどの鋭さは残っていないけど、敵意は相変わらずビシビシ伝わってくる。


「か、奏雨ちゃ……」

「帰るわ!!」


顔を赤らめたまま、くるりと身体を反転させて、教室を出て行ってしまった。
周りの、特に男子生徒達の視線はそんな彼女に釘付け。


「……っくっく……」


しかし、信濃くんと環くんだけはおかしそうに笑っていた。


「あれはやっぱりないな」

「ああ、そうだな」


信濃くんの言葉に環くんが珍しくあっさり同意した。

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