雪のとなりに、春。
「え、なに? どういうこと?」


なんのことかさっぱりわかっていない私は、2人を交互に見た。
信濃くんが口角を上げて意地悪い笑みを浮かべながら、親指を自分に向かって立てる。


「イケメン耐性」

「アホなの? 普通に雪杜以外の男子とろくに話したことないってことだよ」

「俺花壱になんかしたっけ?」


つまり、奏雨ちゃんは男子と話すのに慣れていない……ということ?

でも、あんなに綺麗な子なんだから、逆に男子の方が放っておかないんじゃないかな。

環くんはこのことすらも見抜いてしまったんだろうか。

彼は小さい頃から人の感情の変化に敏感だった。
むしろそれが彼の芸術の根本……人の感情から作品のヒントを得ていることがほとんどだから、当たり前と言ったら当たり前なんだけれど。


「あ、カノちゃん。雪杜くん来たよ!」

「!」


乃奈香ちゃんの声に反応して、教室の入り口を見る。

廊下で周りの生徒にぺこりと礼をしている雪杜くんの姿が見えた。
女子に囲まれても特に表情を崩すことなく、軽く頭を下げてあしらっている。


「ユキメ後輩相変わらずモテてんなー」

「カノ、早く行って助けてやれよ」


いたずらに笑う環くんの言葉に頷いて、ずっと手に持っていた進路希望用紙を鞄の中に乱雑にしまった。

もう一度雪杜くんの方を見ると、私が教室を出る支度をしているのに気付いたのか、そのまま廊下の壁に寄りかかっていた。

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