雪のとなりに、春。
『雪杜くんもお医者さんになるの?』
本当に聞きたいことを飲み込んで、言葉を変えて声に乗せた。
だって、肯定されるのが怖かった。
雪杜くんがこれ以上先に進んでしまうのが怖かった。
「特に決まってないけど、どうしたの急に」
質問の仕方を変えたところで、返ってくる答えはてっきり「医者になる」だと思っていたので、内心驚いた。
それと同時に、まだ将来のことを決めてない人が身近にいて安心する。
頭が良くて、たくさんの選択肢に囲まれて、まだ選んでいない雪杜くんと
特に勉強ができるわけでもなく、信濃くんみたいにスポーツができるわけでもない、限られた中で進める道を探す立場の私。
将来のことを決めてないと言っても、その中身は全然違うんだけれど。
現に隣にいるこの人は、学年一位の成績を維持し続けているし高校で習う範囲はすでに履修済だという。
……実は私の隣の席の人も同じような人間だったりする。
「あのね、今日進路希望用紙が配られたんだけど、私だけ進路が決まってなくてちょっと焦っちゃって」
「へえ、進学じゃないんだ?」
「うーん……あ、雪杜くんはどこの大学に行くとか決めてる?」
まだ雪杜くんと付き合う前、雪杜くんから言われた言葉を思い出した。
『受験のことを考えたら、前倒しで勉強するなんて普通でしょ?』
先輩よりは知識あるよ、とはっきり言われてしまったから、危機感に襲われて必死に数学の勉強したんだっけ。
そうだ、この人は1年生の早い段階から受験を考えていたんだ。
お医者さんになる気はなくとも、レベルの高い大学に入るのは変わらないんだろうな。
……私は、何を安心していたんだ。