雪のとなりに、春。
奈冷は、本物の天才だった。

彼が家に来た頃はまだお父さんも家にいる時間が多くて、お父さんから問題を出してもらうのが恒例の勉強法だった。
クイズ形式で楽しく物事を覚えられる時間が楽しかったのを覚えている。


そして、奈冷は初日からその天才っぷりを出し惜しみすることなく披露した。

兄でも答えることができなかったお父さんからの質問に、あっさり答えてしまったのだ。


お父さんから頭をわしゃわしゃと撫でられても、無表情を貫くそのクールさに幼いながらも羨望の眼差しで見つめてしまっていた。

それからだったと思う。
わたしは彼の全てが気になってしまったし、気付けば目で追うようになってしまっていた。


勉強はどうしているのかはもちろん
そのクールな表情の内側では何を思って、何を考えているのか。
どうしたらその表情は崩れるのか。


「俺は父さんみたいな医者になりたい」


――仮面が外れるのは、案外簡単だった。

父のものであろう医学書を大切に持って、海の向こうに想いを馳せて夢を語る彼にわたしは釘付けになってしまっていた。

こんなに気になる理由も
焦がされるような気持ちも

その日すとんと落ちるように理解する。


わたしはこの人が好きで、ずっとこの人の隣にいたいんだ。


……なのにどうして奈冷にキスを拒まれたとき、少しほっとしたんだろう。

奈冷なら拒んでくれると、心のどこかで思っていたんだろうか。
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