雪のとなりに、春。
5 別に、普通でしょ
*奈冷side*


「お、満点」


隣で机に突っ伏して、伸ばした両手をぎゅっと握りしめ祈るようにしていた花暖先輩が、俺の言葉を聞いてガバッと起き上がる。


「本当!?……あ」


喜びたいのは俺も一緒だけど、ここ図書室だから。

人差し指を口元に当てながら圧とともに答案用紙を渡す。

このやりとりも本日何度目かわからない。

反省する間もなく受け取った答案用紙を両手で握りしめ、そのまま天井を仰いだ。


「これくらいのレベルならもう問題なさそうだね」


実力テストも無事に終わり、こうして2人で図書室に通う日々を過ごしている。
壁に掛けられているカレンダーが5月を示しており、通い始めて数週間も経つことに気付いた。

花暖先輩の学力を正確に分析するためにも、全ての教科の問題と回答用紙を1度預かったのがよかった。

結果、先輩は本当に勉強ができないことがわかった。
問題を作る側としては助かるので、むしろやりやすい。

去年、1度だけ開かれた勉強会で、数学の教科書を音読して丸暗記しようとしていたのを思い出して少し笑いそうになる。


今では簡単な数学の問題ならこうして満点をとれるほど成長した。飲み込みが早くて驚かされる。
もしかすると地頭はいい方なのかもしれない。

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