雪のとなりに、春。
先輩の成長がこれだけわかりやすいと、毎日問題を作るのも苦じゃなくなる。
むしろこれが先輩の力となって受験に対して前向きになるなら、いくらでも付き合うし力になりたい。

睡眠時間が削れようが、心落ち着かせる時間が減ろうが、どうってことないのだ。

まあ、俺がこんなにも人のために何かをしようとするのは初めてなので、少し空回っている気もしなくもない。


「雪杜くんのおかげだよ、いつもありがとう」

「別に、普通でしょ」


満点を取れた余韻に浸る先輩を他所に、俺は頭の中で次の問題内容を考えていた。

明らかに先輩が弱いのは数学だ。
あらかた基礎は固まっただろうから、ここから応用に切り替えてさらに展開させていく必要がある。


「おーい、奈冷」


向かい側から声をかけられ、めぐらせていた思考がプツンと途切れる。
見れば、タマキ先輩が苦い色の残る笑みを浮かべていた。


「あんまりカノ甘やかすなよー? カノも奈冷に頼りたいのはわかるけど、全部頼むのはよくねーぞ?」


苦い色はすぐに消えて、花暖先輩にむかって意地悪い笑みを浮かべている。

今の一瞬ですぐにわかった。

タマキ先輩には俺が内に秘めようとしている疲労を見抜かれている。
この人は本当に人の感情の変化に敏感だ。隙あらば作品に取り入れようとする姿勢は本当に感心する。


「う……わかってるよ、自分でもちゃんと頑張るもん」


満点の答案用紙で口元を隠す花暖先輩。
横からはその口が尖っているが丸見えで、俺も笑みがこぼれる。

疲れるだとか、そんなの知らない。
この人のためならきっと何でもできる。


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