離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 驚いて顔を上げると、彼はこちらを見下ろし優しく微笑む。
 
 庇ってくれたんだと気づき、胸の辺りが熱くなった。
 
 どうしよう。うれしい。
 
 今の言葉は忍さんの本心じゃないってわかっているのに、それでもドキドキしてしまう。
 
 そんな私たちを見て、内田部長がいまいまし気に舌打ちをした。
 
「ふん。そんなに自慢の妻だというなら、来週海外からやってくるゲストを忍くんの自宅で接待してみるといい」
「自宅で接待ですか……?」
「ホームパーティーだよ。外国人は好きだろ、そういうの。君が本当にいい妻なら、夫の重要なゲストをもてなすのは当然だ」
 
 試すような視線を向けられ驚いていると、忍さんが「相手にしなくていい」と私に耳打ちをした。
 
「あの、海外からのゲストって、どんな方なんですか?」
「中東でホテルをいくつも経営している富豪だ。日本に高級ホテルを作る計画をしていて、ホテルの建設にあちこちのデベロッパーが手を挙げている」
「上條不動産も、その中の一社なんですね」
「あぁ。ただでさえ中東は宗教や文化が違う。そのうえこだわりが強く気難しい相手だ。琴子が接待する必要はない」
 
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