離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 忍さんはそう言ってくれたけれど、私は微笑んで首を横に振った。
 
「ゲストがよろこんでくださるのなら、よろこんでお引き受けします」
 
 そう言うと、忍さんは驚いたように息をのむ。
 
「考えも無しにうなずくなんて、若い女は本当に軽率だな。もしゲストの機嫌をそこねれば、会社に大損害が出るんだぞ。君に責任が取れるのか」
 
 内田部長はこちらを指さし大声で怒鳴る。
 
 すると、それまで見ていた岩木さんが私たちの間に入りにっこりと笑った。
 
「さすが内田部長ですね。副社長の自宅にお招きするのは素晴らしい妙案です。ちょうど完成したばかりのマンションも見てもらえますし、日本の文化やおもてなしを知っていただけるいい機会になる」
「岩木、そんな簡単に……」
 
 心配そうな忍さんに、岩木さんは圧力のある笑顔を向ける。
 
「大丈夫ですよ。琴子さんなら」
 
 力強く言って、ちらりと私を見た。
 
「ね、琴子さん」
 
 そうウインクされ、私も「はい」と背筋を伸ばす。
 
 その様子を見た忍さんは、「なんでふたりがわかり合っているんだ」と不満そうに顔をしかめた。

 


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