離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 こんなことははじめてで、心臓を撃ち抜かれたかと思った。
 
 彼女の口から出た『主人』という響きの柔らかさ。
 
 少し照れたようにはにかむ表情。今思い出しても鼓動が速くなる。
 
 けれどかわいいだけではなく、部長の辛辣な言葉を黙って受け止める芯の強さや、俺のことを批判されたときに見せた怒りを含んだ表情。
 
 そして、無茶な提案に少しも動じず微笑んでうなずいた姿。
 
 本当に、なにからなにまで魅力的だと思う。
 
 はじめてデートしたときよりも、彼女に惹かれている自分に気づく。
 
 どんなに彼女を愛したって、琴子は俺のものにはならないのに。
 


 自分の妻に片想いをしているなんて、滑稽だなと自嘲した。
 




 
 週末。 
 
 新居のマンションでホームパーティーが開かれた。
 
 やって来たのはアハメッド夫妻と五歳の娘。
 
 そして秘書や使用人たちなど八名。
 
 こちらの秘書やスタッフも数名おり、総勢十五人ほどが集まったが広いリビングはまだまだ余裕がある。
 
 ダイニングには琴子が用意した食事が並び、自由に取って食べられるようになっていた。
 
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