離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 琴子は微笑み、ナジャーに生け花の手順を教える。
 
『わたしもっ!』
 
 元気よく手を挙げたのは、ひとり娘のルルだ。
 
『気をつけてハサミを持ってね』
 
 琴子はルルのために子供用のハサミと、カラフルで扱いやすい花を用意してあげる。
 
 三人は今日はじめて会ったというのに、すっかり打ち解けていた。
 
 楽しそうに笑い合い、花を生ける。
 
 ナジャーとルルはイスラムの民族衣装ではなく着物姿だった。
 
 ナジャーは髪を隠すヒジャブもつけていて、どちらも琴子が用意しプレゼントしたものだ。
 
 そしてふたりに着物を着せてあげたのももちろん琴子だ。
 
 ナジャーは白と翡翠の地に大輪の椿が描かれた着物と、エメラルドグリーンのヒジャブ。
 
 ルルは鮮やかな赤の地に白い花が散ったかわいらしい着物を着ていて、どちらも褐色の肌によく生えて似合っていた。
 
 その様子を少し離れたところから見ていた俺は、感心してため息をつく。
 
「琴子は、英語も着付けも生け花もできるのか……」
 
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