離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
寝室で立ち尽くしているなんて、不審に思われなかっただろうか。
動揺しながらバスルームに行き、頭から熱いシャワーをかぶった。
なにを考えてるんだ俺は。少し落ち着け。
勢いよく落ちてくるお湯に打たれながら、自分に言い聞かせる。
琴子は夫婦という体裁を保つために泊まってくださいと言っただけで、それ以上の意味はない。
ここでまた彼女に手を出してしまったら、俺は最低な男になってしまう。
たとえ一睡もできなかったとしても、彼女には指一本触れないようにこらえるんだ。
何度も心の中で繰り返し、決意を固めてから浴室を出る。
体を拭きながら、着替えがないのに気が付いた。
持ってこようと思っていたのに、寝室のベッドに動揺しすぎてすっかり忘れていた。
まぁいいか、と濡れた髪を適当にかきあげ、腰にタオルを巻く。
寝室に着替えを取りに向かおうとすると、廊下から水音が聞こえてきた。
なんだろうと不思議に思い、その物音はトイレからだと気づく。
ドアが少し開いているのか、勢いよく流れる水音に混じって苦し気な嗚咽が聞こえた。