離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
8 妊娠と逃走
◆妊娠と逃走




 アハメッド氏を招いたホームパーティーが終わり、忍さんがバスルームに向かうのを見送った私は、ほっと息を吐き出した。

 彼の役に立ててよかった。
 
 よろこびと安堵がこみあげてくる。
 
 それに、今日は忍さんがここに泊まってくれる。
 
 彼と一緒にいられるのがうれしくて、自然と頬がゆるんでしまう。
 
「あ、今のうちに着物を脱いでおこうかな」
 
 ひとり言をもらしながら、自室に戻り帯を解く。
 
 締めつけがなくなったとたん、胸の辺りから不快感がせりあがってきた。
 
 なんだろう……。
 緊張していたせいかな?
 
 違和感を覚えながらも部屋着に着替える。
 
 着物をハンガーにかけ汚れがないか確認しているうちに、不快感はどんどん大きくなっていった。
 
 額にじわりと脂汗が浮かぶ。
 
 それと同時に激しい吐き気に襲われた。
 
「なに、これ……」
 
 おう吐感をこらえきれず、トイレに駆け込む。
 
 扉を閉める余裕もなく、床に膝をつき体を折るようにして胃の中のものを吐き出した。
 
 苦しくて気持ち悪くて涙があふれる。
 
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