離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 それでもまだ収まらず、咳き込みながら何度も吐いた。
 
 なんでこんな吐き気が……。
 
 そう思ってはっとした。
 
 そういえば、しばらく生理が来ていない。
 
 前回の生理はいつだっただろう。
 
 忍さんとデートした日よりも前なのは確実だ。
 
 少なくとも、一カ月半はたっている。
 
 こんなに生理の周期が乱れるのははじめてだった。
 
「ということは……」
 
 頭の中に妊娠という言葉が浮かぶ。
 
 これはもしかしてつわり……? 私、妊娠しているの……?
 
 予想外の出来事に、頭が真っ白になった。
 
 私が男の人に抱かれたのは、たった一回。
 
 忍さんとのあの夜だけだ。
 
 妊娠しているとしたら、あのデートのときしかありえない。
 
「どうしよう……」
 
 気持ち悪さと不安とで、頭がパニックになる。
 
 それでも吐き気は収まらなくて、喉がひりひりと痛んだ。
 
 もう胃はからっぽで吐き出すものもないのに、吐き気が止まらない。

 どうしたらいいだろう。
 
 そう思っているとき、背後から名前を呼ばれた。
 
「琴子……?」
 
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