離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 みんなを巻き込んでこんなに心配させて、結局勘違いだったなんて申し訳なさすぎる。
 
 穴があったら入りたい。
 
 私が自己嫌悪に陥っていると、忍さんが「よかった……」とつぶやいた。
 
「琴子が無事で、本当によかった」
 
 心から安堵したような表情に、驚いて瞬きをする。
 
「忍さん、怒らないんですか? あんなに大騒ぎしてご迷惑をかけたのに」
「怒るわけないだろ。子供がいなかったのは、少し残念だけどな」
「残念って……」
 
 どうして? 私の妊娠は彼にとってよろこぶことではないはずなのに。
 
 混乱していると、看護師さんが「点滴の準備ができましたよ。こちらにどうぞ」と声をかけてくれた。
 
 私が立ち上がろうとすると、忍さんが当然のように手を伸ばし体を支えてくれる。
 
「あ、ありがとうございます」
 
 お礼を言うと、「足元に気をつけて」と優しくエスコートしてくれた。
 
 用意してもらったベッドに横になり、腕に点滴の針を刺す。
 
「なにかあったら声をかけてくださいね」
 
 看護師さんがそう言って、ベッドの周りのカーテンをしめた。
 
< 157 / 179 >

この作品をシェア

pagetop