離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 忍さんは私の顔をのぞき込み、「寒くないか?」とか「気持ち悪くなったら言えよ」とか気遣いの声をかけてくれる。
 
「そんなに心配しなくても、大丈夫ですよ」
「だってあんな真っ青な顔で倒れる琴子を見たら、心配にもなるだろ」
「過保護すぎです」
 
 過剰なくらい心配してくれる彼に戸惑っていると、真剣な表情で見つめられた。
 
「万が一琴子になにかあったらと思うと、不安で仕方なかった」
 
 低い声で言い、私の手をぎゅっと握りしめる。
 
 私よりずっと大きくて頼もしいその手が、わずかに震えていた。
 
「ずっと君を自由にしてあげたいと思っていたはずなのに、琴子を失ったらと想像するだけで、どうしようもなく怖かった」
「自由に?」
 
 どういう意味だろうと不思議に思い、忍さんを見上げる。
 
「君が俺との結婚を望んでないことはわかっていた。好きでもない男の妻になるなんて苦痛でしかないだろう。だから、極力君に近づかないようにして、二年後には離婚して自由にしてあげなければと思っていたのに……」
 
 彼の告白に驚いて目を見開く。
 
 忍さんがそんなことを考えていたなんて。
 
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