離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「それなのに、琴子を知れば知るほどどうしようもなく惹かれてしまった。いつか手放さないといけないと思っていたはずなのに、もう君がいない人生なんて考えられないくらい、琴子が好きだ」
「忍さん……」
 
 私が震える声で名前を呼ぶと、彼は「身勝手な男ですまない」と顔をゆがめる。
 
 ぎゅっとつないだ指先から、彼の体温と一緒に真剣な気持ちが伝わってきた。
 
 胸がいっぱいで、涙がこみあげてくる。
 
「私も、忍さんが好きです」
 
 静かに言うと、彼が信じられないという表情でこちらを見つめた。
 
「本当に?」
 
 確認するようにたずねられ、うなずいて繰り返す。
 
「忍さんのことが、大好きです」
 
 彼はしばらく黙り込んだあと、形のいい眉をひそめた。
 
「これは夢か?」と真顔で言う。
 
「夢じゃないですよ」
「だって、こんな都合のいい現実があるわけがない」
「じゃあ、現実化どうか触ってたしかめてください」
 
 そう言って、つないでいた手を引き寄せ、忍さんの手の甲に頬ずりをする。
 
「柔らかい」
 
 ぽつりとつぶやいた彼に「ね、現実でしょう?」と笑いかける。
 
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