離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「もっとちゃんとたしかめたい」
 
 そうささやいた忍さんの黒い瞳が、色っぽい熱をおびる。
 
 その表情がかっこよくて鼓動が速くなる。
 
「いいか?」
 
 誘惑するような問いかけに答えようとしたとき、「こほん」と咳払いが聞こえた。
 
 ふたりそろって振り向くと、不機嫌な表情の父が立っていた。
 
「いくらなんでも、私の存在を忘れすぎじゃないか」
 
 顔をしかめものすごく不服そうに言う。
 
 そうだ。父もいたことをすっかり忘れていた。
 
「失礼しました。琴子さんがかわいくて、些末なことは頭から抜け落ちておりました」
 
 さらりと言った忍さんに、父がむきになって怒る。
 
「今、私を些末なことと言ったか」
「言葉のあやですよ。お義父さん」
「いや、絶対本心だろう」
 
 そんな言い合いをしてから、父は大きく息を吐き出した。
 
「とりあえず、お前たちの間になにかの誤解があってすれ違っているのはわかった。夫婦なんだから、きちんと話をしてわかり合う努力をしなさい」
 
 父の言葉に忍さんは姿勢を正し「はい」とうなずく。
 
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