離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 じわりと胸が温かくなったとき、目の前がなにかに遮られた。
 
「わ」と驚いて声が出る。
 
 振り返ると忍さんが手を伸ばし私の目元を覆っていた。
 
 私をうしろから抱き寄せ、岩木さんを睨んでいる。
 
「琴子がほかの男と見つめ合っているのを見させられるのはおもしろくない」
 
 仏頂面の忍さんを見て、岩木さんがまた愉快そうに肩を揺らした。

 

  

「今日はありがとうございました」
 
 無事打ち合わせも終わり、玄関で岩木さんを見送る。
 
「次の打ち合わせはご自宅ではなく、本社の執務室にしましょうか」
「そうだな」
 
 そう言うふたりにおそるおそるたずねる。
 
「私が会社にうかがって大丈夫なんですか?」
「あぁ。俺たちの披露宴とはいえ、ほぼ会社のためのイベントだからかまわない」
「いえ、そうではなくて……」
 
 私が言いよどむと、「ん?」と忍さんが首をかしげた。
 
「前に会社にうかがったとき、忍さんは私を執務室に入れたくなさそうだったので」
 
 以前岩木さんのスマホを届けたとき、忍さんは『琴子を執務室に入れるわけにはいかないだろ……!』と慌てていた。
 
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