離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「だって、気持ち悪いだろ。仕事中、琴子を思い出しながらメンダコのぬいぐるみをながめていたなんて」
 
 そういえば水族館でメンダコに似てるって言われたっけ。
 
 予想外のことに、言葉を失う。
 
 忍さんはわざわざメンダコのぬいぐるみを買って、自分のデスクの上に置いて、仕事中私を思い出していたらしい。

 
 黙り込んでいると、忍さんは「怒ってるか?」と私の顔をのぞきこむ。
 
 私は「ほんと忍さん、女心をわかってなさすぎです」と顔をしかめた。
 
「そんなの、うれしいに決まってるじゃないですか」
 
 会えない時間も私のことを考えていてくれたなんて、すごくうれしい。
 
 私がそう言うと、忍さんは驚いた表情を浮かべそして笑ってくれた。
 


 



 岩木さんが帰ったあと、ソファに座り結婚式場のカタログを眺めていると、忍さんがコーヒーカップを持ってやってきた。
 
 ミルクたっぷりのカフェオレを差し出され、「ありがとうございます」とお礼を言って受け取る。
 
 ネコ舌の私がやけどしないように、ちょっとぬるめの温度にしてある。
 
 彼の優しさを感じてうれしくなる。
 
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