離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
そのせいもあって、俺のことを手のかかる弟のように思っているふしがある。
「政略結婚にも相手を思いやる気持ちは大切ですからね。夫婦というものは互いに信頼し助け合って……」
岩木はこちらを見ながらぶつぶつと文句を続ける。
小言に付き合う理由もないので、岩木の言葉を聞き流しながら仕事を再開した。
丁度我が社が手掛けた、千戸以上の大規模高級マンションが完成したばかりだった。
都心の再開発の目玉で、六ヘクタールの広大な敷地には小川が流れ桜並木が続き、レストランや銀行、病院や商業施設が立ち並ぶ。
もはや大きなひとつの街を作り出すと言ってもいい一大プロジェクト。
太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギーを使い、古い街を最大限環境に配慮した新しい街へと作り変える。
これが成功すれば、ほかの都市の再開発のモデルケースにもなる重要な仕事だ。
この会社は上條不動産という国内有数の不動産開発業者だ。
俺はその創業者の血筋に生まれ、三十二歳で副社長に就任した。
自分が人より恵まれた環境に生まれたことは自覚していた。