離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 それでも、受け取ったものに見合う以上の努力を重ねてきた自負もある。

 メディアに向けたプレスリリースの内容を確認していると、目の前に写真をつき出された。

「せめて自分の結婚相手の顔くらい、確認してください」

 有無を言わせぬ岩木の言葉に、俺は仕方なくそれを受け取り開く。

 そこには二十代半ばの黒髪が綺麗な女性が写っていた。
     


        

 
 数日後、俺はホテルのラウンジにいた。

 
 ホテルに滞在していたゲストと遅めの朝食をかねた商談をし、空港に向かう彼を見送った。

 そして自宅に帰る前にラウンジでひと息ついたところだった。

 静かに流れる音楽と、窓から見える手入れの行き届いた日本庭園。

 落ち着いた雰囲気のラウンジに、その空気を壊すように大きな声が響いた。

「これからマッチングアプリで引っ掛けた女と会うんだよ」

 見ると軽薄そうな茶髪の男が、ラウンジのソファに座っていた。
 
 片手にコーヒー、反対の手にスマホを持って大声で話をしている。
 
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