離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「メッセージでやりとりしたけど男慣れしてなさそうだし、簡単にやれそう。それに待ち合わせにこんな高級ホテルのラウンジを指定してくるくらいだから、世間知らずの箱入り娘だと思う。あとでお前の店に連れてくから、一応あの薬用意しといて」
 
 周りにいる客たちが眉をひそめていることにも気づかずに、男は大声で続けた。

「そうそう。あれ飲ませれば朦朧として、どんな女でも抵抗できなくなるだろ」
 
 そう言って下品な笑い声をあげる。
 
 聞くに堪えない内容に、俺は立ち上がり無言で男に近づいた。
 
 そしてふんぞり返るように座っている男の足に、わざと自分の足をひっかけた。

「わっ!」
 
 片手にカップを持っていた男がバランスを崩す。
 
 服の上にコーヒーがこぼれ、男は悲鳴を上げた。
 
 じたばたと慌てる男を見下ろしながら、「失礼」と形だけの謝罪を口にする。
 
「失礼じゃねぇよ、やけどしただろ!」
「コーヒーはすでに冷めていて湯気もたっていなかった。やけどをするような温度には見えなかったが?」
 
 冷静に返すと、男はこちらを睨んだ。
 
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