離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「それでも熱かったんだよ! それに洋服も汚れたじゃねぇか。どうしてくれるんだよ」
「では、やけどの治療費と洋服代を支払おう。その代わり、名前と連絡先を教えてくれ」
「連絡先?」
「それから、今電話で話していた友人の店名と場所も」
 
 男を見下ろしながら低い声で言う。
 
 彼は困惑するように眉を寄せた。
 
「なんでそんなこと……」
「君はこれからここにやってくる女性を知り合いの店に連れ込んで、なにか飲ませようとしている。それが違法なものか合法のものかは知らないが、相手の合意なく薬を飲ませるのは間違いなく犯罪だ」
 
 俺の言葉に男の表情に焦りが浮かんだ。
 
 視線がせわしなく動く。
 
「は? 意味わかんねぇんだけど。つまんねぇ因縁つけるなよ」
「うしろめたいことがないなら、連絡先を教えても問題ないのでは?」
「もういい! 気分悪いから帰る」
 
 男は立ち上がり、逃げるようにラウンジから出て行った。
 
 卑劣な男を警察に突き出してやりたいところだが、電話での会話だけでは捜査はしてもらえないだろう。
 
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