離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 愛情のない政略結婚とはいえ、妻になる予定の女性があんな程度の低い男と遊ぼうとしていたなんて。 
 
平静を装いながらも内心むっとする。
 
「あなたがアプリで待ち合わせをした……。ええと」
「いや、上條忍だ」
 
 俺が名乗ると、彼女はきょとんとした表情を浮かべた。 
 
 俺の名前に覚えはないようだ。 
 
 彼女はまだ政略結婚の話を聞かされていないのだろうか。

 少ししてから「本名は忍さんとおっしゃるんですね」と彼女がふわりと笑った。 
 
 派手な化粧をしていてもわかる、可憐であどけない表情だった。

「物静かで落ち着いていて、雰囲気にぴったりの素敵なお名前ですね」
 
 透明感のある柔らかい声が心地よかった。 
 
 けれど服装とのギャップが大きくて違和感がある。
 
「見た目や服装は派手なのに、ずいぶん育ちのよさそうな丁寧な言葉遣いをするんだな」
 
 俺が感じたことを口にすると、彼女がはっとしたように表情を変え焦り出す。
 
「え。丁寧ですか? じゃなくて、丁寧かなぁ。普通だと思うけど。別に育ちもよくないし」
 
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