離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 慌てて砕けた口調に変えたけれど、無理をしているのは丸わかりだった。
 
「名前は?」と問いかける。
 
 彼女は「こと……」と名前を口にしてから、「愛です」と言い直した。 

 まぁこれも偽名だろうと思いながらうなずく。

「君はいつもこうやって、アプリを使って男と会ってるのか?」
「そ、そうだよ。普段からこうやって遊んでる」
「相手がどんな男かわからないのに。危ない目にあったりしないのか?」
 
 俺があきれた表情で言うと、彼女は頬をふくらませて反論してきた。
 
「大丈夫だよ。私恋愛慣れしてるから」
「恋愛慣れしているから大丈夫だなんて、なんの根拠もない。警戒心がなさすぎるな」
「でも、みんなやってるし……。忍さんだって、一日だけデートをしたいってお願いしたらこうやって待ち合わせに来てくれたんだから、人のこと言えないじゃない」
 
 彼女は必死に言い訳を口にしながらこちらを見上げる。 
 
 どうやら俺をアプリの待ち合わせ相手だと思い込んでいるらしい。
 
 はぁ……と大きく息を吐き出す。 
 
 そんな俺の反応に、彼女は不安そうな表情を浮かべた。
 
< 26 / 179 >

この作品をシェア

pagetop