離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「あの、もしかして。実際に私に会ったら想像と違って、デートする気がなくなったとか……?」
 
 彼女は「メイクも服も頑張ったのにな」と沈んだ声でつぶやく。
 
 アプリにどんな写真を登録していたのかは知らないが、彼女を見て期待外れだと思う男はいないと思う。
 
 それなのにこんなに落ち込むなんて、自分の価値がわかっていない。
 
 世間知らずもいいところだ。
 
「もし俺がこのまま帰ったらどうする?」
「そうしたら、またアプリで違う人を探すけど」
 
 その答えに、俺は額に手を当てた。
 
 せっかく俺があの怪しげな男を追っ払ってやったのに、また違う男を探すなんて。 
 
 こんなことを言われたら、危なっかしくて放っておけない。
 
 それに……。 
 
 とちょっと意地悪な考えが浮かぶ。
 
 マッチングアプリの相手だと思って一日遊んだ男が自分の政略結婚の相手だと知ったら、彼女はどれだけ驚くだろう。 
 
 きっと戸惑い焦るだろうな。『どうか父には言わないでください』と、必死になって頼む姿が想像できる。
 
 形だけの妻とはいえ、今から弱みを握っておくのも悪くない。
 
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