離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「わかった」と彼女を見下ろした。
 
「アプリを消してもう二度と使わないって約束するなら、今日一日デートの相手をしてやる」
 
 俺の言葉に、彼女は「本当?」と顔を輝かせた。
 
「よかった。断られたらどうしようってドキドキした……」
 
 ひとり言をつぶやいて胸をなでおろす。 
 
 その仕草は男と遊び慣れているようには見えなかった。

 岩木が言っていた通り、彼女は箱入りのお嬢様なんだろう。 
 
 なんの気まぐれかは知らないが、いつもとは違う派手な格好で自分を偽って異性とデートしようとしているらしい。
 
 世間知らずで危機感がなくて、危なっかしいにもほどがある。
 
 まったく……。と小さくつぶやく。
 
 もし俺があの場にいなかったら、さっきの男にいいように遊ばれてひどい目にあっていたかもしれないんだぞ。
 
 そんな想像をすると、なぜか苛立ちを覚えた。 
 
 政略結婚の相手とはいえ、結局は他人。 
 
 彼女がなにをしようが俺には関係ないはずなのに、なぜこんな気持になるんだろうと疑問に思う。
 
「車を停めてある。行こう」
 
 彼女を促しホテルの駐車場へと向かう。
 
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