離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 考えてみれば、男の人が運転する車の助手席に乗るのははじめてかもしれない。
 
 しかもこんなにかっこいい人……。
 そう思うとさらに緊張してしまう。

 今乗っている車はもちろん、彼が身に着けているものはスーツも靴も腕時計も、どれをとっても高級品だった。
 そして彼がまとう落ち着きと独特の雰囲気。
 とても普通の会社員には見えない。

 たまたまアプリで出会ったけれど、いったいなにをしている人なんだろう。
 
 気になるけど、逆に自分のことをたずねられると困るから聞きづらい。

 考え込んでいると、ぐぅ……とまぬけな音が車内に響いた。
 
 私は慌ててお腹を押さえる。
 
「す、すみません!」
 
 ふたりきりで車に乗っているときにお腹がなるなんて、恥ずかしすぎる。
 
「今日は緊張してて、朝からなにも食べられなかったから……っ!」
 
 聞かれてもいないのに必死に言い訳をすると、くっくっとかみ殺すような笑い声が聞こえてきた。
 
「食事が喉を通らないほど、デートを楽しみにしていたのか」
「わ、悪いですかっ?」
 
 きっと、子供みたいだとあきれられた。
 
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