離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 向かい合った忍さんが、私を見てくすくすと笑う。
 
「だって、忍さんが好きなものって言ったから……」
「それにしても、腹がなるほど空腹なのにスイーツの店とはな」
「ここはスイーツをフルコースで食べられるから、空腹じゃないと楽しめないの!」
 
 私たちはスイーツで有名なお店に来ていた。

 ここでは色とりどりのスイーツをフルコースで出してくれるのだ。
 
 にぎわう店内はほとんどが女性客だった。
 
 カップルで来ている人もいるけれど、スーツ姿の忍さんはその美貌もあってひと際目立っていた。

 
 さっきから女性の視線がこちらに集まっている気がする。
 
 こんなにかっこいい人がいたらつい見てしまう気持ちはわかるけど、ちょっと居心地が悪い。
 
「あの、ごめんなさい」
 
 私が謝ると、忍さんは「ん?」と首をかしげた。
 
「忍さんはもっと落ち着いたところのほうがよかったよね」
 
 一緒のテーブルに座っている私ですら視線が気になるんだから、本人はもっと落ち着かないだろうな。
 
彼の気持ちを考えずお店を選んでしまったことが申し訳なくなる。
 
「君はここに来たかったんだろ?」
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