離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「うん。テレビで見てからずっと来てみたかったの。こんなお店にデートで来れたら最高だなって憧れてて」
「それはよかった」
 
 彼は注目を集めるのに慣れているんだろう。
 
女性たちの視線を気にもせず自然体だった。
 
 そんな会話をしているうちに、白いコックコートを着たパティシエがワゴンを押してやってきた。
 
 ひとつひとつのテーブルでパティシエ自らサーブして仕上げてくれるスイーツは、色も形も芸術品のように美しい。
 
 宝石のように輝くフルーツや繊細な飴細工が乗ったプティフール。
 
 そこに真っ白なジェラートを添え、色鮮やかなソースで花を描く。
 
 白いお皿の上に美しいデザートができあがっていく。
 
「わぁ……。すごく綺麗」
 
 思わず声をもらすと、忍さんが「写真を撮らなくていいのか?」とたずねてきた。
 
「え?」
「こういうの、写真を撮って周りに自慢したりするんだろ?」
 
 ほかの女性客はスイーツの美しさを写真に残そうとスマホを構えている。
 
だけど私はスイーツが作り上げられていく様子を見つめたまま首を横に振った。
 
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