離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 父の仕事の関係で、年上の男性と食事をすることはよくある。
 
 政治家や経営者、たくさんの権力者に会ってきた。
 
 でも、忍さんみたいに自然体なのにどこか品がある人ははじめてだった。

 落ち着いていて無駄な動作がなくて、ただ食べているだけなのに色っぽい。

 じっと見つめていると、視線を上げた忍さんと目が合った。

「どうした?」
「な、なんでもない」
 
 慌ててうつむくと、黒い髪がさらりと落ちて頬を隠してくれた。
 
 どうしよう。
 さっきから、忍さんを見ているだけで心臓がドキドキしてしまう。

 顔が赤くなっていることに気づかれませんようにと心の中で祈る。

 お店を出たあとは水族館に連れて行ってくれた。
  

 大水槽を前に「わぁ!」と歓声をあげる。
 
 ビル何階分もありそうな大きな水槽。
 まるで海の底から海面を見上げているような気分になる。

「すごく綺麗……。何時間でも見ていられそう」
「水族館が好きなのか?」
「うん。ゆったりと泳ぐ魚を見ていると、私まで自由になったような気分になれるから」

 いくつもの魚影を見つめたままうなずく。
 
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