離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
1 一生に一度の冒険
◆一生に一度の冒険
「政略結婚させられるの? 会ったこともないおじさんと!?」
私の話を聞いた友人の川野ひとみが思いきり顔をしかめた。
「おじさんってわけじゃ」
そう言いかけると、
「だって相手は三十四歳でしょ? 私たちより十歳も上だよ。立派なおじさんじゃん」
とすぐに反論された。
「それは人によると思うけど……」
「じゃあ、その人の写真は見た?」
父から政略結婚の話を聞かされたのは数日前。
一応お相手の釣書と写真もあったけど、私はそれを開くこともなく『わかりました』とうなずいた。
私が気に入ろうが気に入るまいが拒否権なんてないんだから、知ったところで意味がない。
だから、お相手は十歳年上ということ以外、なにも知らなかった。
首を横に振った私に、ひとみは「自分の結婚相手の写真も見てないなんてありえない!」と鼻息を荒くする。
店内に声が響き、まわりにいるスタッフやお客さんの視線がこちらに集まった。
「ひとみ、声が大きいよ」
私が小声で言うと、彼女はため息をついてから鏡越しに私を見る。
ここはひとみが働くヘアサロンだ。