離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 謝ると、彼は「謝らなくていい」と首を横に振った。
 
「ただ、君がかわいすぎてどうしていいのかわからなくなる」
「忍さん……」
 
 呼びかけた言葉はキスで遮られた。
 
 そのまま抱き上げられ、ベッドルームへ運ばれる。
 
 私をベッドに座らせると、忍さんはスーツの上着を脱いだ。
 
 そして、片手でネクタイをゆるめながら私を見下ろす。
 
 これから忍さんに抱かれるんだ……。
 
 実感がこみあげてきて、ごくりと喉が上下した。
 
「怖いか?」
 
 問いかけに、私は首を横に振る。
 
 少しでも怖がるそぶりを見せたら、彼は途中でやめてしまうと思った。
 
 だって忍さんはとても優しいから。
 
「怖くなんてないです。だって、私は恋愛慣れしてるし、いつもこうやって遊んでるし……」
 
 この期に及んでそんな強がりを言うと、忍さんが意地悪に目を細めた。
 
「そうだった。君は遊び慣れているんだもんな」
 
 そう言って、首元からネクタイを乱暴に抜き取り床に捨てる。
 
 ぎしりとスプリングがきしみ、ベッドの上に押し倒された。
 
 白いシーツの上に、私の黒髪が広がる。
 
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