離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 そんな裕福な家庭に生まれ、小さな頃からなに不自由ない生活を送れたかわりに、将来は父の決めた人と結婚するのは当然だと教えられて育ってきた。

 父は昔から無口で厳しい人だった。
  
 幼かった私にとってそんな父は近寄りがたくて、親子らしい会話を交わした記憶はほとんどない。

「この前テレビに琴子のお父さんが出てたけど、相変わらずイケオジだよね」
「そうかなぁ」
「めちゃくちゃかっこいいよ。渋くて知性的で、政治家の中でも断トツでイケメンじゃん」

 ひとみの感想に曖昧に首をかしげる。
       
 かっこよくてうらやましいと言われるけれど、自分の父なので正直よくわからない。

「将来は琴子の旦那さんがお父さんのあとを継いで政治家になるの?」
「ううん。それはないみたい。お相手は大きな会社の御曹司らしいし」
「へぇ。琴子はひとり娘だから、てっきり結婚相手を後継者にするのかと思った」
「言われてみれば、たしかに」

 なによりも仕事を優先する父のことだから、自分の引退後を任せられる人を私の結婚相手に選びそうなのに。

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